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2025.1.23 07:00ゴー宣道場

徹底比較『フランス革命の省察』の訳し方④ 自国の歴史を省みないのはうぬぼれ/迷信に執着するのは保守ではない

徹底比較『フランス革命の省察』の訳し方④byケロ坊

 

6.自国の歴史を省みないのはうぬぼれ
佐藤健志版(PHP研究所)
「フランスの革命派諸氏は、自分たちが英知の光に満ちていると吹聴する。
わが国の父祖たちは、そんなうぬぼれとは無縁だった。人間は愚かであり、とかく過ちを犯しやすい――これこそ彼らの行動の前提となった発想である。」

二木麻里版(光文社文庫)
「わたしの国の祖先は、フランスの紳士たちがおおいに恩恵をこうむっていると誇らしげに語っている啓蒙の光に照らされていなかったので、人間とは無知で誤りやすい生き物だという印象をもって行動したのです。」

中野好之版(岩波文庫)
「自分らには余りあるほどの持ち合わせがあるとフランスの紳士たちが我々に吹聴する、あの光明に浴してこなかった我々の先祖は、人類の無知と可謬性(※)の強固な印象のもとで行動した。

※「可謬的(かびゅうせい)」とは、自身に対する健全な自己否定のことだそうです。大晦日の歌謡曲スペシャルでの『Real Face』のギリギリで生きていたい話を彷彿とさせます。

ここは自国の歴史を否定する革命派・左翼の傲慢さを批判しているわけですが、この件を取り上げると、カンチガイが甚だしい男系派は「自分らこそが先祖を尊重してる」みたいなことを言うでしょう。しかし実際には男系派にそんな気など全くないのはミエミエなのです。

例えば、皇統の存続の危機があるからこそ皇位継承問題があるわけですが、恐ろしいことに男系派はその危機自体を無視します。
目の前で皇室が終わってしまう事態を放置して、一体何を尊重してるのかという話です。

神武天皇しか知らないだろという浅すぎる皇室知識も同様です。
そうなってしまった理由は、男系派は日本の歴史から切り離されて、「天皇は男系」という渡部昇一・八木秀次による啓蒙の光に照らされてしまったということですね。

なぜそうなってしまったかと言えば、実は皇室をどうでもいいと思っていたから、ということに話が繋がってきます。
フランスの革命派も、王室がどうでもよかったからこそギロチンにかけました。そしてバークはフランス国王がそうなる前にそれを予測していました(『省察』刊行はフランス革命勃発のごく初期)。
人権宣言で突っ走ったフランス革命がカルトの行為だとわかっていたからでしょう。

男系派のことを男系カルトと呼ぶのは、男系派の性根にある本質をバークと同じように見抜いているからです。

 

 

7.迷信に執着するのは保守ではない
ここは特に強調したいところになります。
佐藤健志版(PHP研究所)
「柔軟性を持ちつつ祖先につながるのは、時代遅れの迷信に執着することにあらず、「自然になぞらえて国家をつくる」という哲学を重んじるに等しい。
同時にそれは、「相続」の概念を基盤にする点で、国家を家族になぞらえることにもつながる。」

二木麻里版(光文社文庫)
「このような方法と原理にもとづき父祖にならい歩むことによって、わたしたちは古さを愛玩するような人たちの迷信とは違う、哲学的なアナロジーの精神に導かれているのです。
この世襲の原理を選びとることで、わたしたちはみずからの政治的な枠組みに血のつながりをあたえたといえるでしょう。」

中野好之版(岩波文庫)
「我々は、この流儀とこの原理にもとづいて我らの先祖に追随することで、好古家の迷信ならぬ哲学的な類比の精神によって導かれる。
この相続制度の選択によって、我々は、国家の枠組に血縁関係の心象を与えてきた。」

ここは「世襲」の言葉を使っている二木版がストレートでわかりやすいなと思いました。
そして言い回しは違っても、三者とも過去からの迷信に執着して一切変えないという態度はおかしいと書いています。
平たく言えば「伝統は大事でも因習に固執するのはダメ」ということです。
保守思想の祖がこう言っているのに、「ずっとそうだったんだから変えるな」「先例だから変えるな」とかを、平然と、延々と言う自称保守は、一体どこまでバカなのでしょうか?
何もかも変えてしまう革命や革新はダメなのは当然ですが、過去のものに固執して何も変えないのも論外だとバークは言ってます。
男系派という連中は一体何をもって保守気取りをしているのかが全然わからなくなります。
保守が何なのかを考えたこともない上に、日本語も読めない人たちでしょうか?

ちなみに、このセンテンスの前後では、自然のサイクルになぞらえつつ、世襲や国家の意義が詳しく書かれています。
民主主義と世襲(天皇・皇統・皇室)を接合させたい場合、参考にすべきなのはやはりイギリスであり、王を殺したフランスはその発想とは真逆の国ですね。

 

「皇位継承の危機から見た『フランス革命の省察』
~男系派が全然保守ではない23の理由」

第1回
プロローグ
1.保守は逆張りではない
2.言葉の中身、論理の有無

第2回
3.設計図の欠陥を指摘すること
4. 「人権はヤバイ」と230年前から言われていた
5.「国をどう動かしていくか」という国家観
6.王と伝統との関係

第3回
7.   王室や伝統だけでなく、キリスト教も弾圧して貶めたフランス革命
8. 「Revolution」は全然カッコいいものじゃなかった
9. 「理性主義」の危険さ
10. 福澤諭吉との共通点(保守としての生き方)
11. 革命派の女性差別に怒る保守主義の父

第4回
12.「オレ様が啓蒙してやる」という態度は非常識なもの
13.固執と改善の話
14.『コロナ論』との共通点
15.愛郷心の大事さ
16.「自由」の意味
17.固執は無能の証

第5回
18.思いっきりリベラルなことも言ってた保守主義の父
19.革命派をカルトに例えるバーク
20.男系闇堕ちした石破と、妥協が技らしい野田のことも言われてる
21.国体を保守すること
22.歴史を省みない“うぬぼれ”
23.頭山満との共通点

 

徹底比較『フランス革命の省察』の訳し方
第1回
1.「人権は爆弾」と言ってるところ

第2回
2.革命派・人権派による王室否定と女性差別の指摘
3.「prejudice」の訳し方

第3回
4.常識が失われることへの警戒
5.困難に立ち向かうこと

 


 

 

今週のライジングに書かれていますが、渡部昇一は15万冊もの蔵書があったそうだから、『フランス革命の省察』を読んでいなかったはずがありません。
英語学者だったのだから、おそらく原文で読んでいたはずです。
しかし、見事なまでに、何ひとつ理解していなかったということになります。

つくづく、「知性」って何なんだろう? って思ってしまいます。

 

 

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